被災地、(旧)阿東町は2010年に山口市に合併、編入された。標高300m前後で夏は涼しく、冬は積雪でスキー場もあるほどだが、今年の夏は地元の人でも「こんな暑いことはない」という。阿東に広がる田園はおいしいコシヒカリなどを栽培している。また、広い家屋の離れには牛舎があり、阿東牛というブランド牛を飼っている家もある。そして何よりも有名なのが、リンゴやナシ、ブドウの観光農園である。日本で栽培されるリンゴの産地では最南端であるという。
阿東地区のリンゴ園は総面積38ヘクタールで、約1万5000本のリンゴを栽培しているが、そのうちの4ヘクタールのリンゴ園がこの水害で被害を受けた。園内に土砂が流れ込み、リンゴの木や道具や作業用機械も流されたところもある。徳佐リンゴ園のある鍋倉という集落は鉄橋も崩落し、リンゴ園も大きな被害を受けた。
リンゴ園を営むSさんは、水害前に東京ドームぐらいの広さのリンゴ園の周りに側溝を行政が掘ってくれていたために園内に泥水が入ってくることはなかったのでほとんど被害は受けなかったという。だが、「風評被害はあるよ。園内に併設した民宿に泊まる客が少ないね。昨年は8000人くらいの人がリンゴ狩りに来たけど、今年はどうかなあ」と語る。
阿東のリンゴ園の被害は、全体の面積からすると大規模ではないが、これからリンゴ狩りのシーズンを迎えるという時に、この水害とそれによる風評被害による観光客の減少が懸念されている。
そんな中でも例年通りにリンゴ観光農園が徐々にオープンしている。Sさんのリンゴ園もこの猛暑と朝晩の温度差でリンゴの色づきと完熟が早まったそうで、先日オープンしたそうだ。だが、一方で被災したリンゴ園の高齢者の中には、これを機にリンゴ園をやめようとしている人もいる事も忘れてはならない。
(吉椿雅道)
7月28日からの豪雨による山口県の被害状況-5
以下、8月9日~11日にボランティアに行ったメンバーからのレポートです。
山口市阿東地区を襲った観測史上最多の豪雨によって約2000世帯の断水、約540世帯の停電を強いられ、9棟の家屋が全壊し、250棟以上の家屋が床上、床下浸水という被害が出た。
13日、山口県は被災者生活再建支援法(萩市にはすでに適用)を阿東地区にも適用する事を決めた。これにより家屋の解体や再建に最大300万円の支援金が支給される。
また、15日に政府よって激甚災害にも指定され、農地や林道などの復旧に国費が投入されることとなった。
上宇津根という集落で150年の古民家に暮らすYさん(60代男性)は、すぐ裏にある砂防ダムを超えて流れて来た濁流や木くずなどが自宅を直撃するのを防ぐために濁流の流れ道を作って、床下浸水だけで済んだ。先祖から受け継いできた伝統ある家をたった一人で守った。畳を上げて、床下を乾燥させた状態の家を見ながら、この家は、「礎(いしずえ)構法と言って地震にも強いんだ。昔の家は長く使えば使うほどいい。」と語っていた。
この水害に関して訊ねると、「被災した家はみんな若い。昔の家は場所を考えて建てられているが、若い家は砂防ダムが出来てから住めるようになった場所なので、今回こんなことになったんだ。」、「山を見れば動く山か、そうでない山かが分かる。でも、そういう感性を持った人がいなくなったなあ。」と感慨深げに語るYさん。また、「この集落で被害のひどい2か所では、広葉樹は残って、針葉樹はすべり落ちたんだ。」と今回、地すべりを起こしたのが人工林ばかりで、人災である事と指摘する。
水害が起きるたびに指摘される放置されたままの荒れた人工林の問題。昭和30年代の「拡大造林」という林業政策が今もずっと尾を引いている。ましてや近年のゲリラ豪雨による過去にない雨量に山も耐え切れなくなってきている。
(吉椿雅道)
7月28日からの豪雨による山口県の被害状況-4
山口市ボランティアセンター阿東支所がお盆休みの間、休み明けの17日からのボランティア受け入れ態勢準備のために現地入りしている頼政良太からのレポートを配信します。
○2日間(8/14,15)のニーズ調査で現地をまわった様子です。
○阿東町はもともと鉱山があったそうで、その地域は蔵目喜(ぞうめき)という地名です。集落は銅(あかがね)、町(まち)などという名前で、昔は遊郭などもありかなり栄えていたようです。昭和初期~中期くらいまで稼働していたようです。
○また、お寺の中に隠れキリシタンの墓があるところもあるそうです。
○訪問した嘉年地区のお宅は、明治時代から続く名家でした。川沿いにあるのですが、家自体は石垣を積んでかなり高い位置に作ってあり、川の水はあふれても問題ない位置に建っています。今回は裏山が崩れたため、大きな被害を受けていました。そのお宅のお家は、高齢の女性の一人暮らしで、いまは施設に入所されているそうなんですが、お盆の間は息子さんが帰ってきて片付けを行っています。息子さんは九州に住んでおられるそうですが、今回の水害を機に地元に帰ってくる決心をしたとおっしゃっていました。明治時代から続く家をなんとかつなげていきたいと思っているとのことでした。また、多くのボランティアさんが片付けに入ってくれたから、自分の家にいつでも帰ってきて遊んでもらえるように整備していきたいと思っているということも涙ながらにお話していただきました。ボランティアさんとの出会いとつながりが大きな力になっていることを感じたひとときでした。
7月28日からの豪雨による山口県の被害状況-3
山口県阿東地区には、山林と田園ののどかな風景が広がる。7月28日から降り始めた豪雨はそののどかな風景を一瞬にして奪ってしまった。町の中心を流れる阿武川が決壊し、坪ノ内という集落は大きな被害を受けた。また周囲の山々も地すべりを起こし、赤茶けた地肌を露わにしている場所も多い。
神戸大学の学生が泥だし作業を行った上宇津根という集落のMさん宅を再訪した。
お母さんは、非常に疲れた表情で玄関先の片づけに追われていた。自宅の裏山に建設していた林道を土石流が流れ、それがそのまま母屋や納屋、ビニールハウスに流れ込んだ。母屋の裏に大量に流れ込んだ泥をようやく片づけ終わったところだった。ビニールハウスにもかなりの泥が入り、貯蔵していたスイカやトマトなどの野菜はすべて埋まってしまい、「あきらめるしかないね」とお母さんは肩を落としていた。
また、ボランティアセンターの人が来て、「何でも言って下さい」って言われたからボランティアの要請の電話をしたら「外の作業はできない」と言われたそうだ。阿東の家々は広く、母屋や離れ、納屋、牛舎などもあってそれを高齢化した家族だけでやるには限界もある。
Mさん宅の息子さん(30代)は、外で働いていたが、たまたま近くに仕事が見つかったので戻ってきたが、25,6世帯のこの集落に若い人がいるのは珍しく、60代以上の高齢者ばかりだそうだ。「同級生50人いても3人残ればいい方だよ。」と息子さんは言う。ボランティアが手伝ってくれるという案内は来ていたそうだが、息子さんが電話しなければボランティアを頼むのにも抵抗があったと言うお母さん。
田んぼにも泥水が流れ込み、大きな被害を受けたそうだ。今のところ今後の復旧の話は行政から出ていない。「どうせ儲からないから田んぼやめようかな」というお母さんの表情が今も忘れられない。 (吉椿雅道)
7月28日からの豪雨による山口県の被害状況-2
*13日から再び阿東町のボランティアセンター(山口市ボランティアセンター・阿東支所)に入っています。
*13日からボランティアセンターはお休みですが、お盆明けの17日からの活動のために、この休みの間にニーズ調査を行っています。
*阿東地域嘉年地区に入りましたが、かなり土砂が多く入っており、人手も日数もかかりそうな様子です。(ニュース1でも詳細は報告済み)
*特に高齢の一人暮らし、あるいは二人暮らしの方が多いので、出来る限り家の周りや生活で使う部分の作業も進めていきたいところです。(高齢化率48%)
*特に裏山が崩れていたりする家では、次に雨が降ったときに土砂がまた家に入ってしまうのではないかという不安を抱えている方が多かったです。(住民の証言にもあったように人口林ということもあって、地盤がゆるい場合は、土砂災害を起こしやすいだろう。)
*普段は山口市に住んでいてたまに帰ってくるというお宅も2軒ほど見ましたが、1軒は全く手つかず状態でした。
*住民の方々は、かなり疲れたという様子が見受けられます。親戚に手伝ってもらっていたけど、もうお願いできないから…という方もいらっしゃいました。
*本日は市の社会課の職員さんと一緒に回りましたが、行政に対する不満がかなり出ていました。市の担当者が最初と言っていることが違う、たらいまわしにされる、などとおっしゃっており、災害時のワンストップ相談所の必要性を感じます。
◎明日も引き続きニーズ調査を行う予定です。